前回は「タラントンの話」から、稲盛和夫氏の「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という成果の方程式について触れました。
その中で「熱意(努力)」について、稲盛氏は『誰にも負けない努力』をすべきだと語っています。ここでいう『誰にも』とは、周りをぐるりと見渡して、100人いたらその100人の「誰にも」負けないという意味です。これが本当に難しく、私自身や自分の子供を見ていても「努力ができること自体が一つの才能なのかな?」と思うことがあります。私自身、振り返っても、そこまで努力したことがないというのが実感です。又、この努力に関して稲盛さんも全従業員に求めているのではなく、自社の幹部社員や私のような中小企業のオーナはそうあるべきであると述べております。
さて、そもそも、その「努力」とは一体何なのでしょうか。 私自身の解釈としては、「対象に向き合っている時間と濃度」ではないかと考えています。「時間」は分かりやすく言えば『量』であり、「濃度」は『質』と言い換えることができるでしょう。
圧倒的な「量」が「質」を生み出す
稲盛さんはファインセラミックスの京セラを立ち上げましたが、最初に作った製品はテレビ用の「U字型ケルシマ」ただ一つでした。
これを作り上げるには、机上の理論だけではどうにもならず、来る日も来る日も様々な混ぜ物(バインダー)を試す泥臭いプロセスがありました。ある時、パラフィン(ロウ)を混ぜることを思いつきますが、今度は金型から抜けなくなってしまいます。会社に寝袋を持ち込んで泊まり込み、食事も研究室に籠もって取りながら、最終的に温度管理や配合の絶妙なバランスを探し当て、ついに成形に成功したのです。(詳しくはぜひ関連書籍を読んでみてください)
ここで語っていることは、稲盛さんが「かなりの時間=量をこなしている」ということ、そして「量をこなすことで、次第に濃度(質)が濃くなっていく」課程を経ているということです。実際に、実験を繰り返すことで、答えに段々と近づいていったのだと思います。ですので、一定の量をこなさなければ、濃度は決して濃くならないし、結果が出ないのだと思います。
15型の金型設計で見えてきた世界
私自身の場合を振り返ってみます。 私は樹脂の成型金型の技術者として、30代前半に派遣社員として転職して成形の金型設計の世界に入りました。2000年代初頭、ちょうど3D CADが出始めた頃で、毎日が試行錯誤の連続でした。
当時、派遣先の職場の先輩にKさんという方がいました。私が設計が終わった金型のモデルをほんの10分ほど見ただけで、不具合や間違っている箇所を次々に指摘してくるのです。まるで人間技ではないようなその感覚に、私はただ圧倒されました。
「Kさんのようになりたい」と強く思った私は、Kさんのやり方や考え方をつぶさに観察し、設計したCADモデルを見たり、資料を見たりして、真似るようにしました。最初は全くできず、自分の能力の無さに落ち込むばかりでしたが、2年、3年と続けるうちに、次第にKさんと同じような感覚で物事を見ることができるようになってきたのです。 それまで私は年に5型ほどを設計していましたが、累計で15型ほどをこなした頃に、その領域に段々と近づいたようになってきたと思います。これもやはり「量をこなした結果」だったのでしょう。
「なぜ?」を突き詰めて質を高める
その過程で私が注意していたのは、「一つひとつの仕様を、なぜこのように決めたのか」を深く考えることでした。根拠を意識づけることに注力したのです。 分からない時は先輩のKさんや周りの人にに聞きに行きました。Kさんも忙しいので「これ読んでおけ」と専門書を渡されることもありましたが、その本を読むことでさらに理解が深まっていきました。わからないことはわかるまで徹底的に調べることにしました。後になって振り返ると、この行動が「質(濃度)」を求めるプロセスだったのだと思います。
その後、アルプスアルパイン株式会社への転職も含め、かれこれ8年ほど成型金型の設計に携わりました。 恐らく金型としては40~50型位は設計したと思います。最後の方はかなり難易度の高い金型を設計しておりました。そこまでいくと、見えている世界が初心者だったころとは全く違ってきます。全体を見ている様で実はポイントとポイントしか見てないのです。Kさんが10分で見落としがないかをチェックしていたのはこういことなのかと、そのころに実感しました。
40代に入り、金型設計の現場を離れて別の部署に異動しました。5年、10年ぶりに当時新人だった人たちや経験が浅かった人たちと話し、仕事を依頼する機会がありました。すると、彼らもしっかりとそのような深い見方ができるようになっており、「人間は確実に成長するものだな」と、自分自身の経験も重ね合わせて強く実感しました。
だからこそ、やはり最初は「質」を求めるのではなく、「量をこなすこと」が何よりも大事なのだと思います。
稲盛さんの言う『誰にも負けない努力』とは、決して最初からスマートな正解を出すことではなく、「圧倒的な時間をかけて、まずは量をこなすこと」なのだと私は理解しています。そしてその量をこなすことで質を次第に上げていくというプロセスに自然となっていくのだと理解しています。個人差は出てきますし、3年でたどり着く人もいれば10年かかる人もいると思います。でも、その仕事が嫌ではなく、継続することをいとわなければ、時間はかかってもたどり着く領域なのではないかと思っています。
不動産の営業の話とはかなりかけ離れた話をしてしまいましたが、仕事の基本的な姿勢や考え方は私は同じだと思っています。今度は不動産の営業をエージェントさんと共にやっていく仕事になりますが、今までの経験を活かしながら、私自身、色々学び、量をこなしながら、質を上げていき、成長していきたいと考えております。