タラントンの話 パート②

前回のブログでは、聖書の「タラントン」の話から、京セラ創業者の稲盛和夫さんが語った、こんな言葉をご紹介しました。

「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」

その中で、稲盛さんは「誰にも負けない努力」という言葉を使っています。

なかなか厳しい言葉ですよね。

周りに100人いたら、その誰にも負けないくらい努力する。

正直なところ、私自身、そこまで努力してきたかと聞かれれば、ちょっと自信がありません(笑)。

ただ、長く仕事をしてきて、努力について少し感じていることがあります。

それは、時間をかけて何度も経験するうちに、仕事の見え方が変わってくるということです。

稲盛さんが京セラを立ち上げた頃の話にも、そんなエピソードがあります。

当時、セラミック製品の開発で、材料の配合や成形方法を何度も試しながら、ようやく製品化にたどり着いたそうです。

最初から正解が分かっていたわけではなく、試行錯誤の繰り返しだったんですね。

この話を読んだとき、私も昔の仕事を思い出しました。

たった10分で間違いを見抜く先輩がいました。

私は30代前半に派遣社員として転職し、樹脂成形用の金型設計に携わるようになりました。

2000年代初め、ちょうど3D CADが普及し始めた頃です。

新しい技術を覚えながらの仕事でしたから、毎日が試行錯誤の連続でした。

その職場に、Kさんという先輩がいました。

この方が、本当にすごかったんです。

私が何日もかけて設計した金型のCADモデルを、ほんの10分ほど眺めただけで、

「ここ、おかしくない?」

「この部分は大丈夫?」

と、次々に問題点を指摘してくるんです。

こちらは何日も考えて作ったものです。それをわずか10分で見抜かれる。

最初は、どうしてそんなことが分かるのか、不思議で仕方ありませんでした。

「いつかKさんのようになりたいな」

そう思いながら、設計の進め方や考え方を教わるようになりました。

とはいえ、すぐにできるようになったわけではありません。

Kさんの設計したモデルや資料を見て、同じようにやってみる。

分からなければ質問する。

忙しいKさんから「この本を読んでおけ」と専門書を渡されることもありました。

そんなことを繰り返していました。

振り返ると、15型あたりから少し変わってきた気がします。

当時、私は年間5型ほどの金型を設計していました。

最初の頃は、一つひとつの作業をこなすだけで精いっぱい。

ところが、2年、3年と続け、累計で15型ほど設計した頃から、少しずつ変化を感じるようになりました。

以前なら気づかなかった問題点が、設計している途中で見えるようになってきたんです。

もちろん、まだまだKさんには及びません。

でも、以前とは何かが違う。

そんな感覚がありました。

その後、アルプスアルパインへの転職も含め、金型設計には約8年間携わりました。

設計した金型は、全部で40〜50型くらいになると思います。

最後の頃には、かなり難しい金型も担当するようになりました。

そして、あるとき気づいたんです。

あれほど不思議だったKさんの10分間のチェック。

自分も、少し似たような見方ができるようになっていました。

金型全体を細かく見ているようで、実は問題が起きそうなポイントを自然と確認している。

「ああ、Kさんはこういうところを見ていたんだ」

ようやく少し分かった気がしました。

あの頃は、ちょっとうれしかったですね。

人は、いつの間にか成長しているものなんですね。

40代になって金型設計の現場を離れ、別の部署で仕事をするようになりました。

それから5年、10年ほど経って、当時まだ経験の浅かった技術者たちと、再び仕事をする機会がありました。

すると、皆さん本当に頼もしくなっていたんです。

昔は一緒に悩んでいたようなことも、今では当たり前のように判断している。

その姿を見て、自分が若かった頃のことを思い出しました。

考えてみれば、私も最初から何でもできたわけではありません。

分からないことを聞き、失敗し、調べて、またやってみる。

そんなことを繰り返しているうちに、少しずつ仕事が分かるようになってきたんですね。

以前は、努力というと、ひたすら長い時間頑張ることだと思っていました。

でも今は、ただ時間をかけるだけではなく、一つひとつの仕事について「なぜこうするのか」を考えながら経験を重ねることも大きかったのだと思っています。

もちろん、成長する速さは人によって違います。

3年でできるようになる人もいれば、もっと時間がかかる人もいるでしょう。

ただ、昔の仲間たちが成長していく姿を見ていると、人は思っている以上に変わっていくものなんだなと感じます。

さて、ずいぶん金型設計の話が長くなってしまいましたね(笑)。

これから私が取り組むのは、不動産エージェントの皆さんと一緒に仕事をつくっていくことです。

不動産の仕事も、最初は分からないことばかりだと思います。

でも、金型設計を始めた頃の自分を思い出すと、最初から何でもできる必要はないんですよね。

私自身、売買仲介については、まだまだ学ぶことがたくさんあります。

分からないことは一緒に調べ、経験のある方にも聞きながら、一つずつ覚えていけばいい。

何年か経ったときに、

「あの頃は、こんなことも分からなかったね」

なんて笑いながら話せるようになったら、うれしいですね。

齋藤 秀哉

Office Owner / 泉区将監出身。活動エリアも将監です。50代半ばからの挑戦。街の身近な相談役として、体が動く限り皆様に寄り添い続けます。

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